書評 "自転車競技のためのフィロソフィー"

自転車競技のための身体トレーニングという複雑で巨大な"森"を実際に歩くためのガイドブック。ディティールに入り込み過ぎて煩雑になりやすい話題にもかかわらず、シンプルに判りやすく解説している。残念なのは「急いで作った本」に見えるところ。それでも面白かった。



興味を引いたところ

"工場"のモデルを用いたエネルギー生産システムの解説が面白い。この類いの書籍の多くは詳細に立ち入ってコピペ的に説明するところを、本書ではホドホドの抽象度でさばいていて好印象。詳細に興味があるなら生理学の本を読めばいいしね。個人的には欄外でいいからF1, F2, G1が何者か名前だけでも入れててほしかったけど。
自転車レースの身体的な負荷特性を観測・整理し、強化すべきポイントを絞りそれらをターゲットとしたメニューとして組み立て述べている点が良い。おかげで強化のための手段を絞り込み、自信を持って取り組めるイメージを抱かせてくれる。それらは結果的にクラシックなメニューと類似することになるが、筆者が述べているように画期的なトレーニング方法など存在しないので当然か。あとはLT超の刺激もLT向上に効果があるとし、網羅的に取り込むよう勧めている点に好感。
個人的な目玉は、LTパワーのパワーウェイトレシオを元に種目ごとのレベルを定義し、それぞれが取り組むべきメニューの強度配分を述べているところ。様々なプロフィールの選手を定量化して指導してきた経験を有する筆者ならでわの話題でたいへん興味深い。

残念なところ

章立ての構造や見出しがなんというか一貫していない。また、章によっては編集者が機械的に校正するだけでももっと読みやすくなるであろう箇所が散見される。著者のバックグラウンドの解説と、基礎的な生理学とパフォーマンスの定量化の話題である1章2章3章の文章を、私は"粗い"と感じた。ところによっては必然性が感じられないパラグラフが唐突に現れ読んでいて辛かった。しかしながら具体的な強化のための手段の解説が始まる4章からは印象がガラッと変わり、そういった粗さは気にならなくなる。
これらの粗さから冒頭に述べた「急いで作った本」に見える、という印象をもった。内容が良かっただけに残念。あとは索引が無いのがすんごく残念。


ぐだぐだ書いちゃったけど結論として面白かった。もしかするとTraining and Racing with a Power Meterと同カテゴリーに見られる本かもしれないけれど、トレーニングという話題に関しては本書自転車競技のためのフィロソフィーのほうがよっぽどタメになるはず。いやホント。