それ本当に空力に効いていますか? - CdAフィールドテスト

自転車走行時にライダーの体が発生する空気抵抗はかなり大きい。空気抵抗軽減に寄与するライダーの乗車姿勢(以下ポジション)について、「上体を低く伏せる」「膝を締める」「肘を狭くする」など様々な言い伝えがあるが、果たしてこれらはどのくらい効果があるのだろうか?そもそも本当に効果があるのだろうか?パワーメーターを含む計測機器を伴ったフィールドテストで確かめてみた。
ってのを2013年春にやっていたのだけれど、まとめるのを忘れていた。

要約
  • SRMをDFPMとしたiBike Gen3で2水準8因子のCdAを測った。
  • Cannondale Slice RS(TTバイク), Mavic Aksium, ロードヘルメット, ジャージで実験。
  • 実験計画法でいい感じにランダムに実験したよ
  • 頭の高さとサドル高は有意に効果がある。CdA 0.01±0.008。
  • 胸の高さ、膝の幅は効果があるかもしれないけど、より詳しい実験が必要。 CdA 0.006±0.008。
  • 肘の幅、頭の向き、Qファクターの効果はかなり詳しく実験しないとわからない。CdA 0.003±0.008。誤差に埋もれている。
  • リーチの影響は不明。
でもこれはあくまでも私の身体と乗車姿勢と、今回の実験で操作した因子のお話。誰にでも適用できる一般化した話ではありません。

実験方法
表1に示す8つの因子を2水準に操作して実験を行う。
表1 操作する因子と水準
因子水準1 (base)  水準2 (modified)備考
Elbow Width狭い広い肘の間隔を10cm変更
Reach近い遠い腕のリーチを10cm変更
Torso Height高い低い肩甲骨の開閉で胸の高さを10cm変更
Head Height高い低い頭の高さ10cm変更
Head Direction顔の向きを約45度変更
Knee Width広い狭いトップチューブ通過時の膝の間隔を5cm変更
Pedal Width広い狭いクリート取付位置により靴の間隔を1.5cm変更
Saddle Height低い高いサドル高を2cm変更

空気抵抗係数CdAは全体平均μと因子1〜8による要因αと残差εによるものと仮定する。

CdA = μ + α1 +α2 + α3 + α4 + α5 + α6 + α7 + α8 + ε

フィールドテストによるCdA計測・比較実験は、実験の規模をコンパクトにとどめる必要がある。実験一回につき、自転車の設定変更と計測機器の初期化に5分、計測に7分の合計12分を要する。また、計測に際してはレース時の条件に近づけるために乳酸性作業閾値の下限付近のパワーを発揮する。このため実施できる回数が被験者の体力水準や体調に依存するので、1日に実施できる実験は概算で12回(12x7min=84minの準LTワーク。総所要時間144分)前後に制限される。
このようにCdAのフィールドテストは実験コストが大きいため、因子ごとに実験を行うような一時一事法(One Factor At a Time)は現実的ではない。実験数を減らしつつも情報量を大きくする実験計画法(Design of Experiments)が望ましい。今回は表2のスケジュールで12の実験を行う。

表2 実験スケジュール
#Elbow WidthReachTorso HeightHead HeightHead DirectionKnee WidthPedal WidthSaddle Height
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12

実験1〜12で得たCdAを因子ごとに整理し、分散分析により効果の有無を確認する。さらにチューキー検定により因子の効果の大きさ確認する。

実験結果
2013年4月19日。埼玉県戸田市 彩湖。iBike Gen3+SRMで彩湖の土手下の直線路を実験あたり1往復してCdAを計測。12回の実験により下記12点のCdAを得た。
それぞれの因子の水準ごとに平均値と標準誤差を集計した要因効果図を示す。
ANOVAを行い要因効果を確認した(表3)。
表3 分散分析
要因自由度平方和平均平方F値p値
Elbow Width10.00002880.00002880.8870.41
Reach10.00000230.00000230.0690.80
Torso Height10.00011780.00011783.6240.15
Head Height10.00026130.00026138.0380.06 .
Head Direction10.00010920.00010923.3590.16
Knee Width10.00014150.00014154.3510.12
Pedal Width10.00003400.00003401.0460.38
Saddle Height10.00031830.00031839.7890.05 .
残差30.00009750.0000325

要因Reachについては効果が見られないので残差にプーリングする(表4)。
表4 分散分析(プーリング)
要因自由度平方和平均平方F値p値
Elbow Width10.00002880.00002881.1560.34
Torso Height10.00011780.00011784.7220.09 .
Head Height10.00026130.000261310.4750.03 *
Head Direction10.00010920.00010924.3770.10
Knee Width10.00014150.00014155.6700.07 .
Pedal Width10.00003400.00003401.3630.30
Saddle Height10.00031830.000318312.7580.02 *
残差40.00009980.0000249

そのうえでチューキー検定による多重比較を行った(表5)。
表5 要因の効果
要因水準2-水準195%信頼区間p値
Elbow Width-0.0031-0.0111 - 0.00490.34
Torso Height-0.0062-0.0142 - 0.00170.09 .
Head Height-0.0093-0.0173 - -0.00130.03 *
Head Direction-0.0060-0.0140 - 0.00190.10
Knee Width-0.0068-0.0148 - 0.00110.07 .
Pedal Width-0.0033-0.0113 - 0.00460.30
Saddle Height-0.0103-0.0183 - -0.00220.02 *

考察とまとめ
因子Head HeightとSaddle Heightの変化によるCdAへの影響は有意にあり、その効果は-0.01(95%CI ±0.008)であると推定できる。またTorso HeightとKnee Widthの変化は-0.006(95%CI ±0.008)と推定されるが、より詳細な実験が必要であることがわかった。そしてElbow WidthとHead DirectionおよびPedal Widthについては今回の実験では有意差を確認することができなかった。
Head Height, Head Directionについては今回ロードヘルメットを用いたため、レースで使用するタイムトライアル用ヘルメットの場合は異なる結果となるかもしれない。

CdAが0.01変わると10kmのタイムが約10秒変わる。頭を下げろ。話はそれからだ。ReachとElbow Widthは空力への影響が小さそうなので、快適性を重視したセッティングを取っても良いだろう。Knee Widthがどうもバカにできない雰囲気だけど、確かめるにはより詳細な実験が必要。